【SCJ】固定価格買取制度導入から2年 再生可能エネルギーを取り巻く現状

  2012年7月に始まった「再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度」(FIT)導入から2年が経過し、国内の再生可能エネルギーを取り巻く環境は大きく変化しました。 

  これまでは、主に地球温暖化対策など環境問題への対応という枠の中で捉えられてきた再生可能エネルギーに対して、その電気を「発電事業者の収益が確保できる価格」で電力会社が買い取るという仕組みの導入は、わが国の再生可能エネルギー市場を大きく活性化させました。 

  その結果、世界でも類を見ないほどに太陽光発電の導入量が拡大し、制度導入から2年を経過した2014年7月末時点で国内の導入容量が1,657万kW、経済産業省が認定した計画中のものを含む設備容量は6,934万kWに達しています。

  一方で、太陽光発電の急増は送電網利用の問題、土地利用や景観の問題、買取制度を支えるための消費者負担の増加など様々な課題を生じさせています。

  固定価格買取制度が導入されたことによる太陽光発電急増の背景には、一体何があるのでしょうか?

【太陽光発電の急増】
  太陽光発電が急増した大きな理由としては、当初設定された太陽光発電の買取価格が40円/kWh(税抜き)と、他の電源と比べて非常に高かったこと、様々な事業用の再生可能エネルギー発電設備の中で、太陽光発電は事業開始までのリードタイムが短く、大規模な設備の導入も比較的容易であったことなどが挙げられます。

  2005年までは、わが国は世界第一位の太陽光発電導入国(2005年にドイツに抜かれて首位転落)でしたし、その後も2009年からの太陽光発電に対する余剰電力売電制度導入など、住宅用を中心に太陽光発電が一般に普及・認知されていたという背景も関係しているでしょう。

  買取制度が始まってからしばらくは、「○○県で太陽光発電所の計画」といったニュースが毎日のように報じられ、新聞紙面で「太陽光発電」の文字を見ない日はありませんでした。制度導入前はほとんど見られなかった大規模太陽光発電所(メガソーラー)が各地で建設され、個人が保有する事業用太陽光設備も増え、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)のように農業と組み合わせた事例も出てきています。

【太陽光発電以外は何故増えない?】
  太陽光発電以外の再生可能エネルギーは、固定価格買取制度が始まって2年が経過した今でも、そこまで大きくは増えていません。その理由としては、発電事業に新たに取り組もうという人達の視点が、直ぐに取り組める太陽光に向いてしまったというのが大きいでしょう。

  計画策定から運転開始までの期間は、太陽光発電の場合はよほど大規模なものでなければ3ヵ月程度~1年といった範囲で収まることが多いですが、風力発電所やバイオマス発電所の場合だと平均2~3年、地熱発電の場合は10年という時間を要します。

  発電に必要な資源量の調査方法なども、大きな差が出ます。太陽光発電は日射量と地形や気候を加味したシミュレーションで必要なデータを得られますが、風力発電や小水力発電の場合は最低でも1年間を通じた風況や水流量観測、バイオマス発電の場合は現地での利用可能な資源量調査、地熱発電の場合は数千万~数億円以上かけたボーリング調査などが必要になってきます。

  少しずつ他の再生可能エネルギー発電の事例は増えてきていますが、まだまだこれからといった状況です。

【明らかになった送電網利用の問題】
  2014年9月に、九州電力が固定価格買取制度に基づく再生可能エネルギー発電設備の送電網に対する接続手続を、一律に保留するという措置を取りました。これに続いて北海道電力・東北電力・四国電力も類似の措置を発表し、「再生可能エネルギーの買取中断」などセンセーショナルな取り上げられ方をされて、大きな話題となりました。

  理由として挙げられたのが、太陽光発電の急増です。発電所の稼働時間が日中に偏る太陽光発電が大量に稼働し始めると、電力需要を供給が上回る事態が発生し、送電網の調整が出来なくなる可能性があるとされています。

  発電設備を建設しても、送電網に接続してその電気を電力会社に売電できなければ事業は成り立ちません。一方で、電気というのは大規模な発電所を除くと長距離の送電が出来ないため、周辺に電力消費地がなければ、その需要を超えた発電所を建てることができないという問題があります。

  実は、2012年の12月には、北海道でメガソーラーの建設計画が大量に持ち上がったことで、送電網の容量が不足する可能性が高いという状況が明らかになっていました。その後、2013年4月には北海道電力管内でメガソーラーの接続制限を含む緊急対応を経済産業省が発表し、2013年12月には沖縄電力管内で同様に太陽光発電設備の接続制限が発表されるなど、徐々に送電網の問題が生じてきていました。

  この問題解決のために、より上流の送電網に電気を流す「逆潮流」という仕組みが2013年5月から認められるようになりましたが、今度は送電線に接続する工事の長期化や事業者の費用負担の増加といった問題が出ています。

  このように、導入から2年で様々な課題が見えてきた「再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度」ですが、その解決のために資源エネルギー庁の委員会を中心として制度改正の検討が進められています。

  買取価格や設備認定のタイミング見直し、再生可能エネルギー源ごとの送電網利用調整、発電所の出力抑制など運用方法の調整、地域の発電事業に対する優先措置など多くの課題が議論されています。

  次回は、現在行われている固定価格買取制度の改正議論について取り上げていきます。

寄稿 / 千葉エコ・エネルギー株式会社
代表取締役 馬上丈司


馬上丈司さんは12月11日に予定するNPO法人ソーラーシティ・ジャパン主催の緊急セミナー“『固定価格買取制度(FIT)に未来はあるのか?』~再生可能エネルギー明日への道筋~”に登壇されます。
ぜひ、ご参加ください。


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