2016年

5月

27日

日本の自然を味わう 湿原、そのふしぎな世界

湿原、そのふしぎな世界

 

陸地でもなく、川や湖でもないふしぎな場所、湿原。そこには、湿原でしか見られないさまざまな植物が生え、虫や魚、鳥などが数多くくらし、四季折々の美しさをつくり上げています。本格的な秋を迎えるこれからのシーズン、木々の紅葉に勝るとも劣らない、眼下に広がる湿原の紅葉もすてきですよ。

湿原て何だろう?

 

ミズバショウが咲く広大な湿原の風景を見たことがありますか? 湿原とは文字どおり湿った野原。土全体が巨大なスポンジのように川の水やわき水をため、春から夏にかけて、ミズバショウをはじめ、ワタスゲやヒメシャクナゲなどのかわいい花々を一面に咲かせます。そして、トンボやチョウなどの昆虫、池や川に住む魚、それらをえさにするさまざまな鳥たちが四季を通じて訪れる自然の宝庫になっているのです。

 

どうやって湿原はできるの?

 

湿原はかつて湖や池でした。そこにヨシやガマといった水生植物がまわりから生えていきます。北海道や本州の高地などでは気温が低いために、草が枯れた後もくさらずに残り、「泥炭(でいたん)」という湿った土になってたい積していき、やがて水面をおおってしまいます。これが「低層湿原」と呼ばれるもの。その後、泥炭の層がさらに重なり、水面を超えて厚く盛り上がるようになると、ミズゴケがおおうようになって「高層湿原」と呼ばれるようになります。こうした湿原ができあがるには、数千年、時には1万年以上の長い年月がかかるのです。

ミズバショウはかれんな植物? 

雪どけ水が流れる水辺に、かわいらしい花を咲かせるミズバショウは湿原の代表的な花。一見、白い花びらのように見えるのは花ではなく「苞(ほう)」と呼ばれるもので、真ん中の黄色いトウモロコシのような部分が花なのです。ミズバショウは、花が咲いた後から葉が出てきて1メートル以上にも大きくなります。夏から秋に湿原に行くと、あの花のイメージとはちょっと違った、大きな葉だけをいっぱいに広げたミズバショウを見ることができます。

湿原はこわれやすい

 

現在、湿原の多くは北海道にありますが、かつては日本全国にたくさんの湿原がありました。それらの多くは、水田などの用途に開発されていったものが多いようです。湿原は、野生生物の微妙なバランスの上に成り立っており、最もこわれやすい自然の一つ。スポンジのようなやわらかい土は、一度でも踏まれると固くなって植物が枯れ、なかなか元には戻りません。湿原の多くに木道が敷かれているのは、ぬかるみの中でも歩けるようにすると同時に、貴重な自然を守るためなのです。

 

地名に見る湿原のなごり

 

たとえば、東京の都心部を見ると、渋谷、四谷などの「谷」、池袋、池尻などの「池」、駒沢、深沢などの「沢」といった字の付いた地名が多く見られます。これらは、かつてそこが湿地や池・沼だったことを今に伝えているもの。昔は、東京にもたくさんの湿原があったのですね。

釧路湿原は、日本一広い大湿原

 

東京の都心部がすっぽり入ってしまうほど広大な釧路湿原は、北海道東部、釧路市の北に広がっています。この一帯は6千年前の縄文時代は海でしたが、ゆっくりと海が後退して、今のような湿原になりました。その80%が、ヨシやスゲのしげる低層湿原で、ミズゴケの生える高層湿原へ変わる途中の中間の湿原も見られます。特別天然記念物のタンチョウをはじめ、シマリス、キタキツネ、エゾシカ、イトウなど貴重な野生動物が数多くくらしています。

 

絶滅から救われたタンチョウ

江戸時代には、東日本のいたる所で見られたタンチョウ。しかし、人間によってとられすぎたため、一時は絶滅したものと考えられていました。ところが、約70年前に釧路湿原で十数羽のタンチョウが再発見され、多くの努力によって今では600羽を数えるまでに回復しました。ヨシやスゲを使って巣作りをするタンチョウにとって、湿原はかけがえのない住みか。10月から3月にかけては、阿寒郡鶴居村にあるタンチョウサンクチュアリでその姿を見ることができます。

山の中にこつ然と広がる尾瀬湿原

 

「夏がくれば思い出す…」で有名な尾瀬ヶ原。群馬・福島・新潟の3県にまたがって広がる標高1,400mの尾瀬の気温は、北海道北部の平地と同じくらい。関東からこれほど近いのに、北海道のような湿原が広がっているのはそのためです。春のミズバショウ、初夏のワタスゲ、夏のニッコウキスゲと四季折々の花が咲きほこります。秋を迎える今頃の尾瀬は紅葉のシーズン。クサモミジが一面に黄金のじゅうたんを広げ、幻想的な光景を見せてくれます。

 

世界の大切な湿地を守れ! ラムサール条約

水鳥がくらしたり、立ち寄ったりするために、なくてはならない大切な湿地を国際的に保護していこうという目的で、1971年にイランのラムサールで条約が結ばれました。それが「ラムサール条約」。加盟国はすでに、70ヵ国を数え、保護対象として登録された湿地は世界575ヵ所にのぼります。日本は1980年に加盟と同時に釧路湿原を初登録。2002年、愛知県の藤前干潟と北海道の宮島沼が登録され、13ヵ所となっています。

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