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<生物多様性と人類の危機>受粉障害による早期死亡 世界で約427,000人が犠牲に!

CC BY-NC 2.0 / Tung Brian Chan
CC BY-NC 2.0 / Tung Brian Chan

2022年12月19日、カナダ・モントリオールで実施されていた生物多様性条約第15回締約国会議が「昆明(こんめい)・モントリオール目標」を採択して終了した。


その主な内容を見てみると下記のような項目が含まれている。

・世界全体で陸地と海の30%以上を保全地域にする。

・外来種の侵入を少なくとも50%削減する。

・生物の遺伝情報の利用で得られる利益を公平に配分する。

・官民で少なくとも年間2000億ドル(日本円でおよそ27兆円)を確保する。

・生物多様性に特化した途上国向けの新たな基金を創設する。


一方、生物多様性に対する影響の監視や情報の公開など、民間企業が果たす責任について義務化は見送られ、採択された目標に強制力がないなど、どこまで実行性があるかについては疑問符がついている。


そんななか生物多様性の損失が世界の人々の早期死亡につながっているという論文が発表された。

2022年12月14日「Environmental Health Perspectives」に掲載された“Consequences for Human Health: A Modeling Study”がその論文だ。


ハーバード大学のMatthew R. Smith教授を中心として発表されたその論文によると、生物多様性の損失によってハチなど受粉に関わる生物が減り、果実や野菜、ナッツ、豆類などの収穫が世界で3%〜5%減少。その結果、健康な食品の供給減や関連する疾病によって毎年42,7000人の超過死亡につながっていると分析している。


その被害は国によってばらつきがあり、低所得国に食物生産の減少は集中しているが、中所得から先進国の方に食品消費や寿命への影響が大きく、感染症以外の疾病を増加させている。


ホンデュラス、ネパール、ナイジェリアで行われたケーススタディによれば、3%〜19%の収穫の減少が12%〜31%の収入の減少につながっている。途上国の経済にとって大きな影響を与えていることは間違いない。

 

ハチなどの送粉者が減る原因は、土地の開発、農業技術の集約化、ネオニコチノイドを中心とする有害な農薬の使用、栄養の阻害、気候変動など、人為的な要因によるところが大きい。

 

現在、100万種の生命が絶滅の危機にあると言われる。私たち人間が今のままの自然破壊につながるライフスタイルを続ければ多くの生命が失われる。この研究結果を知れば私たち人間がそのなかに含まれていないとは断言できないだろう。


2030年までに生物多様性を大きな前進させるツールは揃ってきた。これからは実行が問われることになる。2023年がその大きな節目となった。そう記憶されるような活動をしていきたい。

Consequences for Human Health: A Modeling Study


翻訳・文 / エコロジーオンライン編集部

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