欧州を結ぶエコ電力ネットワーク計画が始動!

 「北海とバルト海で風が吹き荒れたときは、ノルウェーの水力発電にエネルギーを貯蔵し、凪いだときには、そこから電力を得る」という大型プロジェクトが政治的に始動しはじめた。具体的にはドイツとイギリスのイニシアチブで、フランス、アイルランド、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、そしてノルウェーの関係閣僚が北海・バルト海に海底・高容量・直流電流・送電ネットワークを将来的に構築することが確認された。総工費300億ユーロ(4兆円)という途方もない大型プロジェクトである。

 現在のEUでは、計画中の風力発電設備だけで100,000MW出力ある。これは中型の石炭火力発電所100基分に相当する。この発電施設の大半は、北海とバルト海の沿岸部、そしてオフショアウィンドと呼ばれる洋上での風力発電施設である。これらの大出力の風力発電建設の最大の障害となっているのは、既存の電力系統では対応できないという問題だ。

 

 例えばドイツでは、すでに2万基を超える風力発電がドイツ全電力消費量のおよそ7%をまかなうようになっている。問題は、電力需要が低下しているときに、風力発電が集中する北海・バルト海沿岸部で強風が吹き荒れると、出力を調整できない原発と大型石炭火力という問題と重なり、ドイツ中央〜北部の電力系統では電力がだぶついてしまうという現象だ。ドイツ中央〜南部の近くには、スイス、オーストリアという欧州の水瓶があり、ここの揚水式の水力発電所にエネルギーを貯めておくことが可能であるため、問題は発生しにくい。しかし、出力変動の大きな風力発電施設の大半は、ドイツ北部に存在する。

 

 この先も、とりわけイギリス・ドイツ政府は、洋上風力発電を中心に風力発電の推進を優先政策として掲げていることから、このままでは両国の電力系統への過度な負担が懸念されている。そこで、新しい電力ネットワークの導入によって、同様の問題を抱える周辺諸国で局地的な風況を平均化し、北部の水瓶ノルウェーを結び、問題解決を図ろうとしている。

 

 ただし、技術的な課題も多く、巨大すぎるゆえに経済界・エネルギー界もどこまでこのプロジェクトに具体的に参入してゆくのかは全く不明である。政治的には実行の意思が示されたが、この先、経済的、技術的な進展はどうなるのか、注目されている。

 

環境ジャーナリスト 村上 敦 http://murakamiatsushi.de/

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