地域再生のための「小水力発電」は人間活力再生のクリーンエネルギーだった!

 梅雨の真っ只中に群馬県から車で約500km、岐阜県郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)というところに行ってきました。旅の目的は農業用水を活用した小水力発電システムの見学です。夏の郡上おどりで有名な郡上八幡の近く、清流長良川流れる大自然に囲まれた癒しの里、石徹白。この地で素晴らしい発見と出会いがありました。

 

 この地域最大の課題は「過疎化・少子化・高齢化」です。過去10年間で人口が約17%減少し、高齢化率も約45%に達してしまいました。このため「地域を後世にわたって引き継ぎ、伝統と文化を継承する」ことが、石徹白の地域づくりに携わる人たちの共通の思い。小水力発電は、このような地域の人たちの思いのシンボルとして、またこの地域に流れる水量豊富な農業用水を再活用するためのものとして誕生。この小水力発電はこの地域の人々にとって夢の結晶であると言えます。

 現在稼動している1機は、既存の農業用水路から分岐されたバイパス水路に設置されていました。直径90cm、長さ3mのらせん型水車。2009年6月より運転を開始して、約2年にわたり連続稼動しています。この水車は、NPO法人地域再生機構と関市の橋梁メーカー篠田製作所が開発したもの。らせん型水車を製品化している会社は日本にはなく、実用的に運転している事例としては珍しいものです。

 

 さて、その発電出力は、常時500W、最大800W。200V三相誘導発電機で発電した電気を、直流30V未満に変換しバッテリーに蓄電した後、インバーターで100Vに昇圧します。この電気制御機もNPO法人やすらぎの里いとしろの理事長による手作り。生み出された電気は農水路に近接したNPO法人の事務所の照明や冷蔵庫の動力源となっています。

 らせん型水車の大きな特徴はごみがつまりにくいことと、流量さえあれば落差が低くても発電できる事です。今回の農水路も流量0.2㎥/秒、落差80cm程度です。メンテナンスはらせん軸のグリスアップ程度で充分らしく電気制御機もバッテリーの定期メンテくらいなもので、地元の人たちのみで管理をしています。

 

 実際に発電は行ってはいますが、利益つまりは地域に貢献できる発電という意味では、道の途上であると思います。最終的には全ての公共施設にこれが設置され、地域電気事業として独立することが最大の目標だと思いますが、施設の説明をしていただいたNPO法人の方々の顔には地域のシンボルをつくり上げるという喜びが写しだされていました。

 日本は古来から山紫水明の国として、身近に絶える事のない清流が多く流れる国であります。その流れを利用して、ダムのような大掛かりで環境の変化をもたらすものではなく、あくまで自然と共存共栄できる発電技術が、地方の田舎で育まれつつある事に大きな感動を覚えました。この地域の電力を全てまかなうまでには、まだまだ時間がかかると思います。ただこの「小水力発電」で電力を生み出そうとする空想力や努力が地域おこしの原動力になり、それが地域の人間活力の育成につながっている事が一番の効果かも知れません。

 

 この日の夜は、近くのキャンプ場に仲間たちとテント泊をしました。ダッジオーブンで作った鳥料理や長良川の鮎の塩焼きを食べながらお酒を飲んでいると明かりのない真っ暗な闇夜に、多数の飛び交うホタルを見る事ができました。この素晴らしい自然と共存するためのクリーンエネルギーの大切さを改めて確認する事ができました。

 

 「小水力発電」が生み出す電力は確かに小さい電力かもしれません。しかしこの地の方々の人間活力がこの石徹白地域全体を照らしているように感じる事ができました。久しぶりに有意義な時間を過ごすことができました。

プロフィール

田村博(タムラ ヒロシ)

群馬県太田市在住。

田村工業株式会社代表取締役、一級建築士

19681216日生まれ 申年 射手座

地元の県立太田高校から日本大学理工学部を卒業後、代官山の設計事務所に三年間勤務。結婚を機に家業を継ぐために群馬に戻る。一昨年、親から政権移譲される。「コミュニケーションを育む住まい」というコンセプトをもとに、住宅専門工務店として鋭意奮闘中。妻、子供2人(男の子)

http://www.tamurak.com/

 

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コメント: 2
  • #1

    齊木紀慶(一級建築士) (土曜日, 09 7月 2011 21:19)

    小水力発電をはじめエネルギーの地産地消システムを構築したい考えるとき、そこで発生できる“地産エネルギー”によって完結できる需要モデルも、同時に考えるべきではないでしょうか。たとえ最初は小規模のものでも良いので“地産”できるエネルギーボリュームで100%賄える設備なり施設なりを最初から制作し、1年を通して安定的にエネルギーを供給&実働できることを実証することが、次の計画規模を想定する骨子になると思います。
    私たちのプロジェクトでは、小水力発電設備を利用し、家畜を囲う電気柵への安定的な電力供給システムを計画しています。ちなみに目的は国産木材の生産コストを削減するために牛を計画植林地に放牧し、下草を除草させるためです。つまり“地域経済活性化支援”モデルを初めから想定し林業者や自然教室主催者との共同実施を前提とした経済的メリットを試算するための計画であるわけです。

  • #2

    田村博 (日曜日, 10 7月 2011 11:09)

    青木様、こんにちは。素晴らしい取組ですね。経済活性化と地産エネルギーとが両輪となって進む事が地域の活性化には一番ですね。この石徹白も地産地消を主目的にスタートしていたのではなく、あくまで地域の人々が管理しやすい方式が、最終的には地域の物で賄うのが一番だという事に気がついた。と地元の方は言っておりました。多分将来的にこの発電で全ての電力を賄う事は難しいと思います。各家庭にはIHなど電力を多く使う設備が浸透してきています。それを全部、地域の民間の力でどうにかしようと思っても限界があります。やはり官民一体、行政が本腰を入れる事で可能になっていくような気がします。民間レベルで動き出したプロジェクトに対し、地域行政の後押しを僕ら建築家がとりつけていく必要があると感じました。これは全国的に言えることではないでしょうか。

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