ヤマトグループの「CSR報告書2011」に第三者意見を出しました!

環境NPOを手がけている仕事柄、様々な企業のCSR報告書を手にします。

 

多くの企業が、自社のCSR報告書を、かなり苦労してつくっていることは十分に理解しますが、こうした仕事をしていなければ、あまり読まないだろうな~と思う代物であることは間違いありません。

 

企業にとって、社会や環境に対する取り組みの情報や、データを開示するツールと考えればそれでも良いのかもしれませんが、あまりに形式にこだわり、読みづらいものが数多くつくられている気もします。

一方、報告書を丁寧につくったとしても、その精神が社員の行動に生かされていなければ絵に描いた餅とも言えます。つくった時には神棚に飾るようなものであったとしても、CSR活動のバイブルとして、日々の活動に使っていけば、その役割をきっと果たします。

 

そうした努力の積み重ねの結果、自社が掲げたミッションやビジョンが、どの地域、どの社員をとっても、同じように反映されて行く。それがCSRの理想形です。今回の東日本大震災のような危機的状況にあって、そうした日々の努力を積み重ねたかどうかが、ブランドイメージに大きな影響を与えるのだと思います。

 

今回、ヤマトグループのCSR報告書の第三者意見を担当しましたが、そこには普段読ませていただくCSR報告書とは全く違った空気を感じました。東日本を中心に多くの被害を出した大震災のなかで奮闘するヤマトグループのひとり一人の社員の姿が伝わってきます。CSR報告書というものを数多く読んできて目頭が熱くなったのは今回が初めて。プロなのに感情に流されてどうする!という意見もあろうかと思いますが、東日本大震災を目の当たりにしたという特殊な事情もあり、熱くなった事実を隠すこともできません。ただ、非常時にあって地域の自主性を生かして復旧にあたっていく姿は、ヤマトグループの個々の社員に刻まれたCSR精神の証ではないかと感じました。

 

下記に自分が提出した第三者意見を転載しておきますが、ヤマトグループのCSR報告書を見る機会があれば、CSR報告書という常識をはずしてお読みいただくことをオススメします。なかなか感動する報告書に仕上がっています。

 

【第三者意見】

 

 東北地方太平洋沿岸部を中心に甚大な被害を出した東日本大震災。地震によって起きた大津波が福島第一原発を飲み込み、東日本を中心に深刻な放射能汚染をもたらしました。第二次大戦の敗戦にも擬せられる危機のなかで、企業市民はどんな役割を果たせるのか。多くの企業人がその「解」を求めて奮闘しています。まさに今、この難局にアジャストし、柔軟に変化できる企業が日本に求められていると言えるでしょう。

 

 「ヤマトグループCSR報告書2011」も、そうした社会的な背景のなかで編集され、東日本大震災への対応について詳述されています。大きな話題となった宅急便1個につき10円を寄付するキャンペーンについての報告もあります。実際に純利益の4割にあたる130億円を寄付するという英断にも驚かされましたが、それ以上に、被災した社員たちが自分の手で救援事業を立ち上げ、自治体やボランティアとともに地域での役割を全うしていく姿に心揺さぶられる思いがしました。

 

 データの重視のCSR報告書では表現しづらい社員とお客様と「絆」についても描かれ、「感動」すら伝わってくる内容です。「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」と社訓にありますが、危機的な状況のなかでの「運送行為」が「命」や「希望」さえもつなぐ「至事」であったことをステークホルダーたちが再確認をした瞬間だったのかもしれません。こうした「感動」をより多くの方と、より永く共有するために、CSR報告書だけで終わらせず、ソーシャルメディアなど多くの方の思いを集めやすいツールの導入を検討するのも良いでしょう。

 

 こうして3.11以降の取り組みについて見るとき、マーケティングの世界で起きている変化がそのまま体現されていることに驚かされます。お客様を商品やサービスを購入する相手としてとらえる「消費者志向」から、お客様の全存在に向き合い、心の満足につながる解決策まで提供することが、持続的なブランドの構築につながると言われます。「DAN-TOTSU経営計画2019」に今後の重点施策として盛り込まれた「買い物困難地域におけるネットスーパー事業の支援サービス」や「独居高齢者の見守り」などは、ラストワンマイルを担う企業としてのブランド力を高めるとともに、日本ブランドの信頼性の向上にも寄与することになるでしょう。

 

 一方、グローバルに視野を転ずると、私たち人類の生存を脅かす地球温暖化防止への取り組みも手を抜くことはできません。「使わない」戦略によって車両を使わず、新スリーターなどで代替する先進的な取り組みに続き、京都で始まった低炭素型の集配システムや、軽商用電気自動車などを積極導入する姿勢は、CO2削減のみならず、ステークホルダーに与える影響という意味でも大きな効果があります。ただ、ヤマト運輸の2010年度のCO2の排出総量が前年より増加していることは忘れないでください。宅急便1個あたりの原単位排出量は2002年度比30%を達成したことは評価しますが、排出総量が増えた原因について、しっかりと分析し、開示していく継続的な努力をお願いします。

 

 羽田クロノゲートの取り組みに代表されるような海外事業についての積極的な投資とそれと並行して展開される文化的な事業はとても魅力的です。ヤマトグループがアジアを中心に活躍することで、きめ細やかな日本型サービスがアジアに浸透して行くことは大きな希望でもあります。その反面、グローバルに展開するにあたって、ダイバーシティの概念を社内に浸透させる努力を怠らないでください。この報告書も現場の声が多数反映された点は評価できますが、まだ男性のみなさんの声が多いように思います。現場で働く女性や海外で勤務する現地の方々の声を受け入れ、個々の事業に反映すると良いでしょう。

 

 最後となりますが、スワンベーカリーに代表されるように障がいを持った方々の雇用の場を確保する取り組みはヤマトグループの大きな財産です。事業を通して社会的な課題を解決する積極的な姿勢こそ今後の日本企業に必要とされるものです。この価値観が今後の復興の鍵を握るとも言えるでしょう。日本を代表するCSRブランドとしてますますの発展を期待しております。

 

特定非営利活動法人エコロジーオンライン理事長

 上岡 裕

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