ストックホルムのSymbioCity 「ハンマビー臨海地区」レポート(2)

The Hammarby Model  出典:http://www.hammarbysjostad.se/
The Hammarby Model  出典:http://www.hammarbysjostad.se/
雨水は下水に流さず、水路を経て、湾に戻される
雨水は下水に流さず、水路を経て、湾に戻される

 第1回ではハンマビーのランドスケープを中心にレポートをしたが、前回も触れた「ハンマビーモデル」とはどんなものだろうか。

 

 この地区では太陽光や太陽熱、風力などの自然エネルギーの活用だけでなく、「生活から出るすべての廃棄物や下水を再生可能なエネルギーで活用している」ところに大きな特徴がある。下水は、有機質(汚泥)と水に分離し、有機質はバイオガスや堆肥として利用、汚水処理後の水は熱処理をして高温にし、地域暖房や給湯として活用される。この地区に住む住民は、必要なエネルギーの半分を自分たちが作り出していることになる。

 

 バイオガスは化石燃料に比べて割高だが、化石燃料にかかる炭素税とエネルギー税を免除されるため、スウェーデンでは導入が広がっている。

 また、これらの汚水処理やバイオガスを利用することは、経済成長の足かせになるのではなく、逆に雇用を生み、経済成長に結びついているということも注目に値する。

 

この地区に導入されている同タイプのゴミシューター(マルメ市ベストラハムネンにて)
この地区に導入されている同タイプのゴミシューター(マルメ市ベストラハムネンにて)

 ゴミは分別してゴミシューターに入れると、地下のパイプを通ってゴミ集積所に自動的に送られる。可燃物は燃やして発電すると共に熱回収され、給湯や地域暖房に利用される。生ゴミは処理する際に発生するバイオガスを回収し、地域のバスの燃料や家庭内の調理のためのガスとして活用される。

 

 排水やゴミを使った発電と地域暖房は、特に資源のない地域でも、エネルギーを生み出せるということがわかる。

 

スーパーにあるペットボトル、ビンなどの回収機
スーパーにあるペットボトル、ビンなどの回収機

 さらに、ペットボトルやビンはスーパーにある回収機に入れると、デポジットがもらえる仕組みがあり、積極的にリサイクルされている。廃棄物や排水もすべて資源という考え方が浸透し、徹底的に再利用されているのがハンマビーモデルの特徴だ。

 

 ハンマビーモデルが注目される理由はまだある。循環型システムだけでなく、環境負荷が少なく断熱機能の高い住宅、水道利用の削減、太陽光発電、太陽熱の活用、屋上緑化の推進、交通計画など、あらゆる環境施策を統合し、組み合わせて高い効果を出している点だ。

 

 ハンマビーは、スウェーデンが国を挙げて進めている持続可能な都市づくり「SymbioCity」(シンビオシティ)のひとつとしても有名だが、「Symbio」という造語には「いくつかの施策を相互に利益になるように統合する」という意味が含まれている。

 

 環境技術と都市機能をうまく連携させることで、快適で低炭素な都市空間を作り出していくという知恵の出しどころが見事である。これはプランニングの段階から、市の関係者だけでなく、建築家、下水道会社、そして市民も加わって何度も話し合い、持続可能な都市の姿をデザインしていったことも無関係ではない。

 

 ハンマビー地区のあり方は、これからの持続可能な町づくりを考える上で、多くの示唆と具体例に満ちているようだ。

 

PROFILE

箕輪 弥生(みのわやよい)

 

環境ライター・マーケティングプランナー、NPO法人そらべあ基金理事

新聞、雑誌、webなど幅広いメディアで、環境と暮らしをテーマにした情報発信や、環境に配慮した商品の企画・開発などにかかわる。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)『LOHASで行こう!』(ソニー・マガジンズ)などがある。自身も自然エネルギーや雨水を活用したエコハウスに住む。

 

オフィシャルサイト:http://gogreen.petit.cc/

 

 

コメント: 1 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    八木浩明・C-MOG・末永浩昭・大熊出身 (金曜日, 25 11月 2011 17:38)

     汚水処理やバイオマス利用が雇用を促進しているという箇所に、双葉郡大熊町出身の私は心を動かされた。日本国の財政界関係者や各省庁官僚およびOB、中央のマスコミ関係者などの乏しい想像力では見出しえない考え方があると知り、私はびっくりした。仮設住宅で暮らし、ビジネスとは自分とは無関係と思っていたが、今回の意見は双葉郡復興の良いヒントになるのでは、とさえ思った。

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