再生可能エネルギー法 既設発電所への適用を求め、自治体らが共同声明

共同声明を読み上げる森利男再生可能エネルギー推進団体連絡協議会会長
共同声明を読み上げる森利男再生可能エネルギー推進団体連絡協議会会長

 風力発電やバイオマス発電に取り組む4団体からなる「再生可能エネルギー推進団体連絡協議会」は1月18日、今年7月施行の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下、再生可能エネルギー法)」について、既存発電設備への適用を求める共同声明を発表した。東京・永田町の衆議院会館で行われた会見に参加したのは、風力発電推進市町村全国協議会、風力発電推進府県連携、バイオガス事業推進協議会、全国市民風車の代表者6名。

 


 再生可能エネルギー法では、太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電した電力の全量を一定期間、電力会社が買い取ることを義務付けている(フィード・イン・タリフ制度。以下、FIT)。しかし経済産業省ではすでに、買い取り対象を新設の発電設備に限定すると表明していることから、再生可能エネルギー推進団体連絡協議会では、風力発電のケースで既設15~20円/kWh、新規は25円/kWhを20年間といった価格・期間を設定するよう強く訴えた。

 

 同協議会会長で北海道苫前町の森利男町長は、「10年前に設置した風車は現在のものと比べてトラブルが多く、修繕費も膨らむ。現行のRPS法の下での買い取り単価(約11.5円)では、新たに増設できるような余裕はない。再生可能エネルギー法は、未来に向けて、日本の再生可能エネルギーの導入量を増やすための法律のはず。そうだとすれば、これまで試行錯誤してやってきた人たちの実績をゼロにしてしまうような制度で良いわけがない」と強調する。

 

 日本における風力発電事業は、国内での知見やノウハウが全くないところからスタートした。欧州製の風車を輸入したが、モンスーン地帯特有の「風の乱れ」や「落雷」に対応できず、故障も多かった。自然エネルギーの町として知られる岩手県葛巻町の鈴木重男町長は、「建設・運営に関しても、収支の面でも、我々は先導的な役割を果たし、実証してきた。(失敗を経てきたことで)必要なデータやノウハウはすべて持っている」と話す。再生可能エネルギー普及の先駆的役割を果たしてきた既存の発電設備が、FITの導入によって無用の長物となってしまうこととなれば、もはや皮肉としか言いようがない。

 

 しかしその一方で、「採算性などの見通しが甘いままに、建設してしまった自治体も少なくない。(風況が悪く、回らなくても)町のシンボルにしたいと、全国各地で競うように風車が建てられた時期もあった」(森会長)という反省の弁も聞かれた。つい先日も、北海道興部町の風力発電所が、修繕費用が捻出できないことを理由に廃止され、「回らない」モニュメントとして残されることになり話題となっている。

 

 同じように事業の継続が難しくなっているケースでも、チャレンジングに風力発電に取り組んできた自治体と、あまりそうではないところが存在するという現実。FITは広く国民に負担を求める制度である。後者のような事例まで一律に救済しようとすれば、国民からの理解を得ることは難しい。同協議会からは、「既設に関してはすでに補助金が投入されているが、その償却残額を返納することで、新設と同等の買い取り条件を考慮してほしい」という意見もあがっている。既存発電設備へのFIT適用には、今後も本気で取り組もうという事業者だけを十分に精査することも必要だろう。

高い設備利用率を誇り、観光名所にもなっている北海道幌延町のオトンルイ風力発電所  Photo by *nog
高い設備利用率を誇り、観光名所にもなっている北海道幌延町のオトンルイ風力発電所  Photo by *nog

 仮に今のまま制度がスタートして、すべての既存事業者が買い取りの対象外となれば、永続的な運営は難しくなり、既設設備で上げた収益を新たな発電設備に再投資につなげたいとする事業者の夢も途絶えてしまう。国内の再生可能エネルギー産業の成長もしかりだ。同法案は再生可能エネルギー普及拡大の切り札となれるのか。今、大きな分岐点を迎えている。

 

取材・文/加藤 聡

 

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コメント: 1
  • #1

    須藤恵一 (日曜日, 15 4月 2012 17:22)

    既存設備に適用されないFIT制度は、あまりにもひどい制度だ。風力発電の先駆者として頑張ってきた方々に、冷た過ぎる。

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