自治体電力の躍動! 新電力にチャレンジする浜松市の取り組み

浜松市の所有地に建設された浜松・浜名湖太陽光発電所
浜松市の所有地に建設された浜松・浜名湖太陽光発電所

本格化する電力自由化の波のなかで地産地消の電力を供給しようという取り組みが増えている。

その台風の目となるのが地方自治体が関わる新電力だ。民間事業者が地域の再生可能エネルギーの電力を集めようと思っても、大手電力以外への売電は事業の不安定化につながると懸念する金融機関が多く、ファイナンスの面から販売先を新電力に切り替えることへのハードルは高い。

だが、新電力の設立に行政機関が関わるとなると話は変わってくる。信用のある自治体が関わることで金融機関の不安も払拭される。その代表格が浜松市が立ち上げた浜松新電力だ。浜松市の取り組みから売電ビジネスにとどまらない地域新電力の明日を考える。

自治体電力は新しい電力会社を目指す!

今年4月、私たちの家庭でも自由に電力会社を選べる「電力自由化」が実施される。メディアでは電力の切り換えを呼びかけるCMが流され、全国各地で新電力への乗り換えキャンペーンが実施されている。彼らの呼びかけに耳を傾けるとほとんどが電力料金が安くなることが売り。残念ながらどのようにその電気が生まれたかを伝えるものはほとんどない。

資源エネルギー庁は電力会社が販売する電気が、何から生まれたものであるかを公開することを義務化することを見送り、推奨される行為とするにとどめた。そのため現時点で何の電気かを明らかにしなくても問題はない。だが、地球温暖化のことを考えたり、地産地消の電気を選びたい消費者にとっては、なにを基準に選んでよいかが不明確だ。COP21で大きく動き始めた世界的な気候変動の取り組みを支えるためにも、どの電力会社が再生可能エネルギーを手がけているかも知りたいところだ。

現状、一般の消費者のところに情報が届く新電力は宣伝広告費を潤沢に持つ大手企業が手がけるものが多い。逆にいうと再生可能エネルギーや地産地消のエネルギーを手がける地域の電力会社は小さなところが多く情報が伝わりづらい。

地域を重視する新電力には自治体が立ち上げたものが多い。地産地消を意識した新電力であるため、全国区のメディアで宣伝広告の取り組みをすることはない。だが、自治体が新電力を手がける場合、地球温暖化対策やエネルギーの安定化、地域で資金を回す目的を持つものがほとんどだ。そういう意味では、電気の中身で電力会社を選びたいという人たちにとって、真っ先に検討すべき電力会社だと言えるだろう。

そんな自治体電力についてエネルギービジョンに「スマートシティ」を掲げる浜松市の取りくみを見ながら考えてみたい。

新電力が地域社会を持続可能にする!

浜松市が地域新電力をつくるきっかけとなったのは東日本大震災だった。福島第一原発事故によって全原発が停止したことを受けて全国的に節電や計画停電が浸透した。浜松市でも電力の安定供給への懸念からエネルギーを持続的かつ安定的に確保することを目標に新エネルギー推進事業本部(現エネルギー政策課)が設置された。その後、民間企業や学術機関との意見交換を通じ、スマートシティのコンセプトへと成長した。浜松版スマートシティの“エネルギーに不安のない強靭で低炭素な社会”という目標のなかに浜松新電力が位置づけられ、エネルギーの地産地消を目指す骨組みがつくられた。

浜松市にとって新電力をつくることはエネルギーの地産地消を目指すことだけに止まらない。地球温暖化を抑制する再生可能エネルギーが蓄電池などを活用することで非常時にも有効活用される。そのことが強靭で低炭素な社会を構築し、市民への環境意識の向上や産業育成の目的も兼ね備える。

当初の計画ではまず市が所有する施設への電力供給から始め、コミュニティベースの取り組みに成長させ、省エネの取り組みも加速させていく。次のステップで浜松市が計画する工業団地に熱と電気を販売することを目指している。残念ながら現段階では家庭向けの電力への参入は未定だという。

浜松市のごみの最終処分場に建設された「浜松・浜名湖太陽光発電所」。停電時には40人以上の人に電源を供給できる施設を備えている。
浜松市のごみの最終処分場に建設された「浜松・浜名湖太陽光発電所」。停電時には40人以上の人に電源を供給できる施設を備えている。

この地域は全国的に見ても太陽光発電の適地であり、全出力を合計した導入量において全国1位の実績を誇る。太陽光で発電した電力はすでに浜松市で消費される電力の5.66%(エネルギー自給率は8.2%)まで達し、2030年には電力自給率を20.3%まで引き上げ、市内にある大・中規模水力発電とあわせて75%を超える電力自給率を目指している。再生可能エネルギーで52.9%の自給が可能だというポテンシャル調査の数字を見ると100%の電力自給も視野に入ってくる。

 

 

ここまで見てくると浜松市が手がける新電力が地域の将来ビジョンと深くつながっているものであることがわかってくる。しなやかに強い地域をつくることを手がけながら、そこに住む人たちのお金を地域に回し、将来の雇用を支える新しい産業の育成も視野に入れる。

おそらく他の地域で立ち上がった地域新電力も同じようなビジョンを描いていることが想定される。子どもたちの未来を守るためには、電気を価格だけで選ぶのではなく、販売される電力や事業の内容によって判断をすることがベストなのだ。エコロジーオンラインでも読者のみなさんの判断材料となる情報を発信することを続けていきたい。

浜松市は1月27日~29日に東京ビッグサイトで行われるENEX 2016/Smart Energy Japan 2016(東1・2ホール1P-24)に出展。スマートシティの取り組みを中心に発表をするという。新しい電力会社のつくり方について興味がある方はぜひ足を運んでほしい。

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