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世界中で問題となっている海洋プラスチック汚染は、年々深刻さを増している状況だ。しかし、この人間が引き起こした危機的な状況に対し、海の小さな生き物たちが、ひそかに「適応」という形で戦い始めているという、驚くべき発見があった。サウジアラビアのキング・アブドゥラ科学技術大学(KAUST)を中心とした研究チームは、大規模な世界調査を通じて、ペットボトルや服に使われるPETプラスチックを栄養源として分解する海洋バクテリアが、世界中の海で広く暮らしていることを突き止めたのである。
この小さなバクテリアが持つ驚くべき能力は、PETase(ペターゼ)という特別な酵素によって支えられている。これまでの常識では、PETのような強固なプラスチックは自然界ではほとんど分解されないと考えられていた。だが、この研究は、バクテリアがこの分解しにくいプラスチックの結合を切り離すための「鍵」となる酵素を進化させていることを明らかにした。
特に注目すべきは、研究チームがこのPETaseの中に「M5モチーフ」という、プラスチックを効率よく分解できる酵素に共通する特徴的な構造を見つけたことである。研究者は、このM5モチーフを、酵素の能力を証明する「分子の指紋」のようなものだと説明している。この「指紋」の発見により、微生物が、本来の餌である炭化水素を分解する酵素を、人間が作り出した新しい炭素源(つまりプラスチック)を利用するために、進化の過程で巧みにカスタマイズしてきたことがわかった。これは、生命の持つ類まれな適応力と進化のスピードを物語っている。
さらに、研究チームが世界中から集めた400以上の海洋サンプルを調べてみたところ、このM5モチーフを持つ分解酵素は、実に約8割もの海域で確認された。ゴミが集まる海面だけでなく、水深2キロメートルに及ぶ深海でも活発に活動していることが判明したのだ。
深海は本来、食べ物となる炭素源が非常に少ない環境である。そのような場所で、バクテリアがプラスチックという「人工的なご飯」を食べられるようになったことは、彼らにとって大きな生存上の強みとなる。これは、地球規模の汚染に対して、微生物たちが進化という形で速やかに対応し始めているという、自然の底力を見せてくれる現象である。
しかしながら、この希望に満ちた発見にもかかわらず、研究者たちは冷静な注意も促している。このバクテリアによる分解の速度は、毎年海に流れ込む膨大な量のプラスチックゴミの増加ペースに比べると、残念ながらとても追いつかないのが現状だということだ。プラスチックが微生物によって分解される前に、既に海洋生物や環境に大きな被害を与えていることを忘れてはならない。
それでも、この深海に眠っていた能力は、私たちに具体的な解決策の道を示してくれている。自然界で偶然に生まれたこれらのPET分解酵素の仕組みは、地上のリサイクル工場で利用するための、より速く、より強力な酵素を人工的に開発するための素晴らしいお手本となる。M5モチーフの特定は、効率的な酵素を設計するための設計図のようなものであり、この自然の力を借りて技術を磨くことができれば、プラスチック汚染との戦いにおいて、強力な新しい味方を得ることができるだろう。海の奥底にいる小さな微生物たちが、人類の未来を救うためのヒントを秘めている。
<関連サイト>
Plastic-eating bacteria discovered
in the ocean
翻訳・文 / エコロジーオンライン編集部(AIを使用)









