小さな奇跡の見つけ方「パッシブカルチャー」を目指して ①

3年前、エコロジーオンラインは田中正造の没後100年の特別企画として「百年を経て蘇る田中正造の伝言~田中正造没後100年記念プロジェクト~」を実施しました。

その最初の伝言として選んだのが次の言葉でした。

 

 

 真の文明ハ

 山を荒さず

 川を荒さず

 村を破らず

 人を殺さゞるべし

 

 田中正造はエコロジーオンラインが活動する栃木県佐野市で生まれた活動家で明治時代に起きた足尾銅山の鉱毒被害を止めようと命をかけた先人です。殖産興業、富国強兵の国策のなかで生み出された足尾銅山による公害のため、足尾の山々は破壊され、そこを源流とする渡良瀬川は汚染されました。その後、渡良瀬遊水地をつくるという名目のため、土地を追われ、命を奪われていく人たちと行動もともにしています。

デンキ開ケテ世見(セケン)暗夜となれり

  「真の文明」への正造のまなざしは彼の死後も環境破壊、戦争、飢餓に苦しめられる世界の人々と共振し続けてきました。福島原発の事故においても何度も引用されています。

 

 正造は「デンキ」を文明の象徴としてとらえ、私たちの暮らしをよくするはずの文明が公害や戦争のきっかけを生みだし、自分たちを苦しめることになったと訴えます。

 

私たちの暮らしを支える電気を大量に安定的に生み出す「原発」という文明の利器。それが暴走を始めると人間の手では止められない。核エネルギーの暴走という終末的恐怖を味わった日本人の心に突き刺さる言葉です。

私たちが目指すべき真の文明とは?

 私たちが生み出した科学文明によって社会の生きづらさが増してしいく。それをどう変えるのか。この言葉の後はこんな風に続いていきます。

 

 物質上、人工人為の進歩のみを以てせバ社会ハ暗黒なり。

 デンキ開ケテ世間暗夜となれり

 然れども物質の進歩を怖るゝ勿れ。

 この進歩より更ニ数歩すゝめたる天然及無形の精神的の発達をすゝめバ、

 所謂文質彬々知徳兼備なり

 

 人間が人間のエゴのみによって進歩を求める現代文明の行く先は暗い。その文明を越えてさらに進み、自然から学び、精神性を磨いていけば、知恵と徳を兼ね備える文明が生み出せる。そう正造は書いています。 

 

「パッシブソーラー」というカルチャー

 環境保護に関わるNPO法人を運営する自分が住宅の世界に深く関わるようになって知った言葉に「パッシブソーラー」というものがあります。

 太陽の光を科学の力によって電気に変えるのが「アクティブソーラー」なら、太陽の熱をそのまま家に取り入れて温めたり、太陽の光を遮断することによって涼しさを保ったり、地域にある光や風や水の流れを敵とせず、自然や人間の知恵で優しく対応していく。そんな考え方が「パッシブソーラー」だと思います。

 すべてが化石燃料によって動くようになった産業革命以降、私たちは自然や人間の知恵を忘れ、化石燃料に依存するようになりました。そのおかげで地球温暖化という問題が生み出され、地球のあちこちで様々な被害が出始めています。その原因とも言える化石燃料もいずれなくなります。そのときに重要となるのがパッシブソーラーの考え方を基本に無駄のないエネルギー基盤を形作り、脱化石燃料を具現化する再生可能エネルギーがそのうえに花開くことなのだと思います。 

 

 そうした文明を表現するのに、「パッシブカルチャー」というのはとても良い表現です。自然にあるものを大切に、やさしく活用していく文明。今年からパリ協定という取り決めで世界が一つになって低炭素社会をつくることが始まります。きっとそのなかでもパッシブカルチャーは重要なコンセプトになっていくはず。様々な分野での活動を追いかけていきたいと思います。

百年を経て蘇る田中正造の伝言~田中正造没後100年記念プロジェクト~

文 / 上岡裕   
(協力:日本住宅新聞)

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