· 

宇都宮大学 髙橋若菜教授&ラース博士 スペシャルインタビュー! (2/3)

FM栃木とエコロジーオンラインの連携が5年目を迎えたことを記念して、環境問題に詳しい宇都宮大学所属 髙橋若菜先生にスペシャルインタビュー!

ちょうど偶然来日していた髙橋先生の研究仲間であるラース博士も交えて地球の未来や身近でできる環境対策など様々なことをお話しいただきました!

 

人間の行動は周囲の環境に大きく影響される

EOL編集部:そういった若い方に限らず、気候変動に関して個人ができる行動にはどのようなものがあり、それが社会全体にどのように波及するとお考えでしょうか。

髙橋先生:う~ん。個人でできることと、構造的に選択できるものとの間には、まだ隔たりがあるように感じます。

例えば、日本の冷房は28、暖房は19と設定されていますが、実際に暖房を19に設定すると、床付近は10程度にしかならず、非常に寒いということがあります。

これは、日本人の忍耐強さの表れであると同時に、脱炭素は我慢を強いるという誤解を与え、無関心を招くような、逆効果を生んでいる側面もあるかもしれません。

これまでは我慢しなければならないと考えることが多かったように思いますが、今後はそのような美徳だけでは達成できない問題もあります。

むしろ、体に良い選択肢や、お財布に優しい選択肢といった、より現実的なアプローチを探していくことが重要ではないかと思います。

例えば、断熱を進める、地元の食材を購入する、ゴミを出さないように工夫する、あるいはそのようなサービスを利用するといったことです。

以前はなかったような選択肢が、現在は増えてきていると思います。

そのような選択肢を増やしたり、あるいは増やすための働きかけをしたり、さらにはそのような取り組みを進めてくれる政治家に投票したりすることも重要です。

また、一般的に言われる省エネ型の家電製品を選ぶといったことも大切です。

この研究室も、最近LED照明に変えていただきましたが、そういった一つ一つの積み重ねが重要であると思います。

その他、公共交通機関や自転車、徒歩といった移動手段を選ぶことも挙げられます。

しかし、それも強制ではなく、楽しんで取り組めるような形が良いでしょう。

誰かに言われたからではなく、自発的に行動することが大切であると思います。

 

ラース博士: インフラ、建物の暖房方法、移動手段の選択、食料など、非常に重要な点を多く挙げていただきましたね。加えていうならば、特に言及すべき重要な点は、消費行動に関する様々な課題です。

私たちは人間として社会的な存在であり、消費行動の選択において、周囲の環境に大きく影響されることを認識する必要があります。

もし友人が常に新しい服や流行の服を購入していれば、私もその服を購入したいと思うでしょう。

なぜなら、そのコミュニティの一員でありたいからです。

そのような社会環境からのある程度の社会的圧力が、私たちの消費行動の選択を左右することは明らかです。

そして、それから逃れることは非常に困難です。

その意味で、より集団的な動きも必要です。個人的な行動だけでなく、集団的な行動も。

 

高橋先生: ええ。そうですね。今ラース博士がおっしゃいましたように、そこに対しては個人だけに任せるのではなく、何らかの集団的な、構造的な変化を促すような選択肢は本当に必要ですね。

 

そうした意味で、例えば使い捨てプラスチックを規制する、であったり、炭素税で誘導したり、そうした政策は、とても大切です。

 

栃木県の交通手段

EOL編集部:ありがとうございます。

ここまでは、世界全体に関する質問でございましたが、ここからは少々スケールを小さくしまして、栃木県民の皆様に向けてのご質問ということにさせていただきます。

栃木県では自動車による移動が多いですが、交通手段を見直すことによって、例えばどのような効果が見込まれるでしょうか。

 

高橋先生: そうですね、栃木県はやはり自動車依存という構造的な問題を抱えている中で、一概には申し上げられませんが、例えば近距離の移動、スーパーへ行くといった場合などでも、多くの方が自動車を利用されているかと思います。

しかしながら、実は徒歩や自転車を利用した方が、体に良かったり、あるいはその他のメリットがあったりすることもあります。

そういった、身近でできることや、双方に利益のあること、Win-Winになることから見直していくということは、CO2削減だけでなく、例えば地域経済の活性化や、人々の健康増進にも繋がる可能性があると思っています。

そして、そういった効果を見える化していくことも重要かと思います。

そのような人々の意識やニーズが行政に届けば、行政も関心を示している分野でありますので、例えば地域密着型のオンデマンドバスを導入したり、カーシェアリングやライドシェアリングを推進したりといった、緑豊かなウォーカブルな通りを増やしたり、様々な取り組みが広がってくる可能性もあります。

最終的には、地域経済の活性化にも貢献する可能性があると考えます。

 

ラース博士: 宇都宮に住んでまだ1ヶ月しか経っていませんので、限られた視点からしかお答えできませんが、確かに東京のような都市と比較すると、道路には多くの車が走っているように見えます。

宇都宮では、おそらく住宅地の密度が比較的低く、一戸建て住宅が多いといった構造的な理由があるのかもしれません。

よりコンパクトで高密度の都市と比較すると、その違いは明らかです。

一方で、宇都宮はサイクリングには絶好の機会があると思います。

平坦な地形ですし、既に優れたインフラも整備されています。

その意味では、運動による健康効果を強調することも重要でしょう。

自転車に乗ったり、歩いたりすることの相乗効果を理解してもらうために、もっと推進されるべきかもしれません。

しかし、移動手段に関しては課題もありますね。

 

高橋先生: 自動車を使うのは、ご家族構成など、様々な要因によるものもあると思います。

通学に関しましては、自転車や公共交通機関を利用される方も多いかもしれませんが、天候が悪かったり、お子様の習い事の送迎の後お買い物、など、様々な場面で自動車を利用せざるを得ない状況もあるかと思います。

この点、便利で心地よい選択肢がふえることも大切ですね。宇都宮市では低カーボンのLRTが通り、多くの人に使われています。

 

LUUPという電気自転車やスクーターも、若い人たちにはよく活用されています。そのような選択肢が、様々なニーズがある人、世代向けに増えていくことが望ましいですね。

 

観光と環境保護は両立できるか?

EOL編集部: では続いて、那須や日光など、自然豊かな地域では、この観光と環境保護を両立させるために、どのような取り組みが望ましいとお考えでしょうか。

 

高橋先生: 観光と環境保護についてですね。

すでに日光では、例えば奥日光周辺や赤沼周辺から低公害バスを運行したり、日光周辺でも歩きやすい遊歩道を整備したりといった取り組みが進められております。

それによって、人々が徒歩で東照宮まで散策できるような環境が整えられてきているかと思います。

そのような取り組みは、今後もさらに進められていくことと思います。

しかしながら、より踏み込んだ対策ということになりますと、世界各国の事例を見ますと、もう少し可能性があるのではないかと考えております。

例えば、自動車の乗り入れを完全に規制し、低公害型のバス専用の地域にするといったことも考えられます。

また、以前から構想はあったと思いますが、ロープウェイやケーブルカーを整備するといったことは、観光客にも魅力的にうつるでしょう。

そのような思い切った対策は、世界的に有名な観光地であり、あれだけ渋滞が多い日光においては、より効果的ではないかと思います。

そういった意味では、規制と経済的な手法を組み合わせることが重要です。

例えば、特定のエリアへの乗り入れに対して料金を課す、あるいは公共交通機関を利用した場合には割引を適用するといった、アメとムチを使い分けるようなインセンティブ設計も有効でしょう。

そのような様々なアイデアを、学生の方々や若い世代、あるいは頻繁に訪れる方々など、多くの方々から募り、議論を深めていくことが重要ではないかと思います

ラース博士は日光にいらしたことがあると伺いましたが、いかがでしたか? 

 

ラース博士: 日光には9年ほど前に一度行っただけなので、日光の具体的な状況はわかりませんが、おっしゃった通りだと思います。財政的なインセンティブや、自動車利用に対する課金は、有効かもしれませんね。 

 

 

フードマイレージという考え方

EOL編集部:ありがとうございます。

では続いての質問ですが、地産地消の食品や地元の農産物を選ぶことが、環境負荷の軽減にどのように役立つとお考えでしょうか。

 

高橋先生:地産地消の産品につきましては、一般的に、まず輸送に伴うエネルギー消費の削減が挙げられます。

いわゆるフードマイレージを大幅に削減できるという点が、最も重要な利点かと思います。

特に輸入品と比較いたしますと、船舶や航空機による輸送、さらには陸上輸送におけるトラック輸送など、様々な段階でのエネルギー消費を抑えることができます。

そういった意味で、CO2排出削減に加え、大気汚染物質の削減にも大きく貢献すると考えられます。

また、地産地消を支えるということは、輸送距離が短いということでもあります。

これは、ポストハーベスト、つまり収穫後の品質劣化を防ぐ上でも有利です。

遠距離輸送の場合、鮮度を保つために冷凍・冷蔵設備が必要になったり、あるいは農薬を収穫後に散布したり、さらには化学物質を多用したりといったことが起こり得ます。

この点、旬の野菜などの地産地消のものは、無農薬や低農薬など、安心して食べられるものも増えてきているように思います。

 

地産地消は、サーキュラーエコノミー、つまり循環型経済の実現にも繋がっていくのではないかと考えております。

 

ラース博士: うーん、フードマイレージは非常に複雑な問題ですね。

なぜなら、基準となるものや、日本の状況を私はよく存じ上げませんが、スウェーデンの研究では、遠方から食料を輸入する方が、地元で生産するよりも環境的に有利な場合があることが示されています。

例えば、トマトやブロッコリーを例に挙げますと、スウェーデンの温室で天然ガスを使って栽培する場合と、遠方から貨物船で輸入する場合とでは、後者の方が有利な場合があるのです。

ですから、フードマイレージは輸送手段にも大きく左右されます。

貨物船は、トラックと比較して非常に効率的な輸送手段です。 季節性も考慮に入れる必要があります。

非常に複雑な問題であり、消費者に伝えることも困難です。状況によって異なりますからね。

 

高橋先生: なるほど。地続きで、国土面積が小さい国も多いヨーロッパでは、そのように考えられるのですね。

もちろん。その国で作れないもの、あるいはトータルでその方が環境に良い場合、輸入というオプションは日本でも大いにあるとおもいます。

一方、地元で生産し、地元で消費できることも可能な日本には、多くの選択肢があるということでもありますね。

日本は島国であり、生物多様性が非常に豊かであるため、おそらくヨーロッパよりも地産地消を進めやすい環境にあるのかもしれませんと思いました。 

また、地元の食材は、輸入品よりも常に新鮮で、旬のものは栄養ゆたかで美味しいことは間違いありません。

 

ラース博士: そうですね。そして、地域開発の観点からも、地元の食料生産は、収入創出や、地方の若い世代にとっても将来の機会を創出するために望ましいでしょう。

私の地元のスウェーデンのスーパーマーケットでは、大きな円盤に様々な種類の食材が描かれていて、矢印が今旬の食材を示しているという、ささやかな取り組みがあります。

実際に人々に理解を深めてもらうためのものです。

人々がそれにどう反応するかは分かりませんが、少なくとも興味深い試みではありますね。

 

 

EOL編集部: ありがとうございます。次に、 ゴミの分別やリサイクルについて、特に栃木県民として気を付けた方が良い点などがございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。

 

(3/3)に続く・・・

 

髙橋 若菜 教授 (政治学博士)

宇都宮大学 国際学部教授。多文化公共圏センター長、 地域経営研究会地域CN部会主査。環境政治学を専門とし、地球環境戦略研究機関を経て2003年より現職。中央環境審議会循環型部会委員、NPO法人うつのみや環境行動フォーラム理事長ほか多数。

日本とスウェーデンを中心に、地域からの脱炭素・ 循環型社会形成の政策ガバナンスを研究。

 

2023年国際共同研究で、 NIKKEI脱炭素アワード研究部門受賞。

ラース ストルーペイト博士(産業環境経済学)

ドイツで電気工学を修学、 実務経験を経て、 スウェーデンルンド大学にて再エネ、エネル ギー効率化、循環型経済を主軸に、技術転換と地域主導のエネルギー移行を研究。

再エネ 事業、国際協力実務経験多数。

 

20254-5月、宇都宮大学国際学部にて外国人研究者。

«一つ前のページへ戻る