自然保護区を守るだけでは生物多様性の崩壊は止まらない!

栃木のしめ縄用のイネの刈り取​り。日本は古来、生物多様性とともにあったはず。(C)いさぴょん
栃木のしめ縄用のイネの刈り取​り。日本は古来、生物多様性とともにあったはず。(C)いさぴょん

 名古屋市で行われた生物多様性条約第10回締約国会議から10ヵ月が経った。外交下手と言われる日本が仕切ったわりに、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する名古屋議定書や、2011 年以降の新戦略計画(愛知目標)がしっかりと採択され、参加国からも高い評価を得た会議だった。意欲的な目標を求める EU と、実現可能性を重んじる途上国との駆け引きのなかで、陸域17%、海域10%を保護地域とする高い個別目標を定めることにも成功したのも成果の一つだった。

 

 だが、こうした戦略のまま、保護区を増やしてそのエリアの固有種を守ったとしても、地球全体の生物多様性の崩壊は止められない。世界で10万ヵ所以上に増えた自然保護区は、陸域で1,700万km²、海域では200万km²を超える。だが、保護エリアでの努力もむなしく、生物多様性が著しく傷つけられている。

 ハワイ大学のカミロ・モーラ博士を中心とする研究グループが28日、マリン・エコロジー プログレス・シリーズ誌に発表した報告によれば、今後予想される人口爆発と資源の大量消費の行方から判断すると、人類の飽くなき欲求が、地球の生態系資源やサービスに持続不可能なインパクトを与え、生物多様性が失われ続けるというのだ。そしてこの影響は適切に管理が行われている自然保護区にも及ぶ。人口爆発と資源消費という根本原因を抑え込むためのシナリオが生物多様性保全にとって不可欠なのだ。

 

 報告書のなかでモーラ博士はこのように語っている。
「保護区は生物多様性を守るうえで、貴重な手法であることは間違いありません。保護区は今後も適切に守られないといけないし、守られる場所も増やさなければいけません。しかし、それだけでは生物多様性の問題は解決できません。この手法の限界を認め、人類の人口爆発と大量消費の問題に時間とエネルギーを割くべきなのです。私たちの調査は国際社会が2つの道の岐路に立っていることを示しています。その一つはより多くの自然保護区をつくり、ほんの少しだけ生物多様性の崩壊を止めること。おそらくこの作戦は生物多様性の崩壊を止めることはできないでしょう。そして残された道が人類全体の人口爆発と大量消費のもたらす問題について真剣に取り組むことです」


 福島第一原子力発電所の事故をもたらしたのも、私たちの大量消費型のライフスタイルと言えるだろう。そしてこの暮らしを守りたいという欲望は、放射能汚染をもたらすだけで飽きたらず、私たちの暮らしを支える生物多様性(=自然の恵み)を崩壊させかねない。こうしたシビアな現実を見直さず、またぞろ原発を再稼働をし、これまでの暮らしを続けることは、新たなる災厄を未来世代にもたらすことにつながる。


 私たち日本人は、この地球に生きていくために、どう暮らすべきかという視点から、現代文明を見直す良い機会をもらったとは言えないだろうか。大地震や津波という、自然の営みの怖ろしさも知ったばかりだ。原発がダメなら、自然エネルギーだ!といった直線的な思考から脱却し(その逆も・・・)、この地球に生きる多くの「生命」をベースにした生き方を模索すべき時なのだ。

 

>>e! Science News

Ongoing global biodiversity loss unstoppable with protected areas alone: Study

 

翻訳・文章:上岡 裕

 

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